『Plus rien 』
『Plus rien(もう何もない)』が原題。バルバラ1968年の作品である。
この曲を訳詞したのはもう随分前になるが、大好きな曲で、訳詞コンサートでもこれまで何回か取り上げている。
思えばシャンソンの世界に触れるようになって、最初に心魅かれたのはバルバラだった。
初めてステージで歌ったシャンソンも彼女の曲『リヨン駅』と『黒い鷲』だったかと記憶している。
それからしばらくバルバラばかり夢中で聴き込む時期が続いた。
そんな頃、偶然、CDショップで中古の「Barbara Le soleil noir 〜私のシャンソン バルバラは歌う〜」という表題のついたLPレコードを目にして、かなり高価な値段であったけれど、すぐに入手した。
|
|
1975年にPHILIPSから発売されたレコードである。
40年前に・・・と思うとジャケットのバルバラの写真にも何かひどく感慨深いものを感じてしまう。
バルバラは70年代から来日公演を何回か行っている。ちょうどこの時期、それに合わせて日本で発売されたLPレコードなのだろう。
この中に『Plus rien』 が収録されていた。
聴いた瞬間に何か心に強く入ってくるものを感じた。 |
『もう何も 』
冒頭の原詩は次のようである。
plus rien, plus rien, que le silence,
ta main, ma main, et le silence,
des mots, pourquoi, quelle importance,
plus tard, demaim, les confidences.
(対訳)
もう何もない もう何もない 静寂以外は
あなたの手 私の手 そして静寂
言葉 なぜ どれだけ重要なのか
後で 明日 秘密を
|
このような調子で、短い言葉がポツポツと呟くように続いていく。
1分36秒しかない短い曲に極端に少ない言葉が乗せられている。
フランス語で書かれている原詩でさえ、こんなに言葉が限定されるのだから、ましてこれを日本語の音節にあてはめて行くのは至難の業であり、よほど日本語を厳選し、一語の重みを最大限発揮させて行かなければ詩として成り立たないと思われた。
しかも原詩のシンボリックで飛躍的な表現から、この詩の情景(恋人たちの愛し合う夜を象徴的に描いている詩なのだが)を、その味わいを損なわずに日本語で再現することのハードルは高い。
が、その分、訳詞する醍醐味満載の魅力的な詩とも言える。
|