『さつきのきさきを 』
嘗て、カトリック系の女子校で教育を受けたこともあって、今でも聖歌(讃美歌)の数々がふと口をついて出てくることがある。特に、五月は「聖母マリアの月」、こんな歌を思い出す。 (蛇足だが、当時の歌詞はすべて文語体だった。意味が分からないと良くないということで、途中から口語体に歌詞が変わったが、よくわからなくても文語のほうが格調高く、ありがたい気がしたように思う。)
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あおあおばわかばに 風かおりて
せせらぎにきく 奇(く)しき調べ
木陰に立てる とわのみはは
御許(みもと)に行き われら憩わん
そしてこんな曲も
五月(さつき)のきさきを あめつち歌う
ひと年(とせ)めぐりて 百合咲く季節
マリア祝しませ 祝せられませばわかばに |
白百合は、どの時代の《受胎告知》の絵画にも描かれているほど、ヨーロッパにおいて古くから聖母マリアと結びついた花、純潔無垢、気高さの象徴であり、そして希望に満ちた春という季節の到来を告げる花でもある。
『千曲川旅情の歌』の「浅くのみ春は霞みて 麦の色微かに青し」ではないけれど、日本において、春の訪れは、まだ目には定かに見えていない浅春の淡い予感にこそあるのだろう。 冷気の中に膨らむ木々の蕾であったり、残雪の中からそっと芽を出す野草であったりするけれど、フランスの春は、まさに5月、一斉に鮮やかに咲き乱れる薔薇や白百合の情景そのものである。
『五月のパリが好き(J’aime Paris au mois de mai)』という曲は、アズナブールのこの曲を歌う時の佇まいと相まって、街行く女性に声をかけて歩く伊達者の曲のように思われている節があるが、実は、 リラやスズランが運んでくる春の訪れ、花で溢れた美しいパリへの大らかな賛歌なのだと私は感じている。
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『J'aime Paris au mois de mai』
『J'aime Paris au mois de mai(五月のパリが好き)』は、シャルル・アズナヴールCharles Aznavour)作詞、ピエール・ロッシュ(Pierre Roche)作曲、1956年にアズナブールによって歌われ大ヒットした曲である。
日本でも「素敵なパリの街に スズランの花が揺れ リラが花咲けば」という山本雅臣氏の訳詞で良く知られていて、5月のシャンソンの代表曲といえよう。
5月の初旬から中旬にかけてのパリは、まさにマロニエの花真っ盛りだった。
ふっくらとした白い花をつける、マロニエの並木の下に、はらはらと白い花びらが舞って、何とも言えない素敵な風情があったのを思い出す。
その時の情景をデッサンするような心持ちで、日本語詞を作ってみた。
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J’aime この街の中 続く石畳
どこまでも いつまでも 歩いていたいと 思う
マロニエの木陰の道
白い花びら 受けたら 生まれ変われる気がする
J’aime 五月のパリは 良い
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(松峰 日本語詞) |
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