「 愛の約束 」〜ミュージカル「十戒」から〜 その三    

初出ブログへ 2011-03-29

 お待たせしました。
今日はいよいよ「愛の約束」の第三回、完結編です。
 <「愛の約束」〜ミュージカル十戒から〜 その一 >及び<その二>に続いてお読みください。

 

 訳詞「愛の約束」  

 l’envie d’aimer (ランヴィ・デメ)」と、この曲の訳詞について話を移そう。
 まず、私の訳詞「愛の約束」を紹介したい。

 

         愛の約束

         彼方に瞬く 光を見つめて
         静かに 心を浸して歩もう
         遥かな空に きらめく光が
         信じる勇気を 私に与える

             愛する想い それだけが力
             一度だけの 命を燃やして
             美しい明日に 生きよう

             愛は全て 共に手を取り
             心分かち合い 今を輝かせ
             美しい世界に 生きよう

         人生は 短く  儚く 移ろう
         すべなく 佇み   時は 過ぎ行く

             けれど 愛する想い  
             ただ それだけで良い
             一度だけの命を燃やして
             美しい明日に 生きよう

             愛は全て 共に手を取り
             心解き放ち 今を輝かせ
             自由な世界に 生きよう

         今こそ 旅立つ 今
         遥かにつながる 一筋の道を

             今こそ 今こそ 今こそ
             光に包まれ  約束の時
             美しい世界に 生きよう

             愛は全て 共に手を取り
             信じ合って 今を輝かせ
              A約束の世界に 生きよう

             信じ合って 今を輝かせ
             約束の世界に 生きよう

 

(注 訳詞、解説について、無断転載転用を禁止します。 取り上げたいご希望、訳詞を歌われたいご希望がある場合は、事前のご相談をお願いします。)

 

 この曲の作詞者Lionel Florence(リオネル・フロランス)とPatrice Guirao(パトリス・ギラオ)も、作曲者であるパスカル・オビスポも、このミュージカルの制作に深くかかわりながら、全体を担った上でのテーマ曲として、そしてフィナーレを飾る曲として、特別な思い入れを込めて、この「ランヴィ・デメ」を生み出しているように思われる。

原詩は次のように始まっている。

c’est tell’ment simple l’amour  (愛はとても簡単)
tell’ment possible l’amour  (愛は誰にでもできる)
a qui le entend regarde autour  (まわりを見渡し 耳を澄ませる人には)
a qui le veut  Vraiment (本当にそれを望む人には)

そしてサビの部分は、<すぐにでも愛は私たちのものになるだろう 道は私たちのものになるだろう 愛というものがお互いに与え合うものであるとわかるならば それが私たちに人を愛したいという気持ちを生むだろう> と、リフレインされてゆく。

この「ランヴィ・デメ」を原曲とした歌が、私の知る限りで二曲、既に発表されている。

 

 一つはCeline Dion(セリーヌ・ディオン)の“THE GREATST REWARD”という曲で、これは2002年に発表された彼女のCDアルバム“A NEW DAY HAS COME”の中に載せられている。
この曲は、試練を乗り越えて恋人との愛を取り戻した、愛の勝利を歌うラブソングに改作されている。原詩の内容からはかなり離れていて、訳詞というより新たに作詞されたものと言ったほうが適切だが、セリーヌ・ディオンの艶やかで張りのある声が耳に快く響く。

 

 

 もう一つは、ミュージカル十戒の日本公演を記念して、2005年に「BLESSING  祝福」というタイトルでシングルとしてリリースされた、平原綾香の曲である。
吉元由美さんの日本語詞で、<信じる気持に素直でいよう 傷ついても痛みを勇気に変えた時、愛は生まれる あなたを本当に愛することができる> というような内容の、やはり恋人に宛てたラブソング、あなたへの思いが細やかに綴られていく歌になっていて、平原綾香が切々とした味わいで歌いあげている。

 

 「愛の約束」というタイトルで、この曲を私は訳詞してみた。
 単に恋人へのラブソングとしてではなく、十戒のテーマ曲として、この曲に込められた深い人類愛が伝わってくるような詩にしたかった。
 ミュージカルの舞台の最後で、親友のJと共に立ちあがって拍手し続けたあの時の熱い感動が、この曲を聴く時いつも蘇っていたからだと思う。

 モーゼのような強い信念や信仰心や愛は私などには想像することさえ叶わないが、絶体絶命のギリギリのところに立たされても決して希望を失うことのない、自分をすべて捨てても、それでもなお、守り続けたいものへの思い、本物の愛がどんなに一途で強くて輝きを放っているか、表してみたかった。

 そういう愛に触れた時、そういう言葉に触れた時だけ、人は絶望の淵から真に再生できるのではないか、そう思った。

 モーゼはたぶん、紅海の断崖に立って、遠い彼方に確かに輝く光を見続けたに違いない。この曲の原詩にはそんなことは書かれていないが、自然に心にイメージされたそんな光を、敢えて訳詞の中に記してみた。

 今この時にも、誰をも照らすそういう光が必ずある。それを信じ、しっかり見続けながら生きてゆきたい、共に今を歩いてゆきたい。

WEB松峰綾音

 そんな思いを持ってこの訳詞を作ってからもう6年が経つ。

 これまで、訳詞コンサートの折々にこの曲を歌ってきているのだが、この二週間、この歌がずっと胸の奥で鳴っていて心を離れない。
 大震災と大津波からの収束への道は未だ遠く、時が経つにつれ疲労と不安はどんなにか募ってきておられることかと思う。でも、被災の渦中にあっても希望を失わず、人としての優しさ温かさを失わず、手を携えて局面を乗り切っていらっしゃる方々の勇気ある生き方に感銘を受け、心からの敬意を表したい。

  この時代 この時 この日本に 共に今生きている私たち
  共に乗り切ってゆきたい

      その思いと共に。

                              Fin      


 
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